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【感想】『HUMAN LOST 人間失格』を観てきたけど【ネタバレ注意】

11月29日、映画『HUMAN LOST 人間失格』を観てきました。

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面白くはなかったです、つまらなくもなかったですが。正確に言うと滅茶苦茶笑えたけど、滅茶苦茶つまんなかったのでプラマイゼロみたいな。そんな感じでした。

何かの映画の予告で見た「全人間失格。」という強烈なキャッチコピーに惹かれ、『人間失格』を片手に劇場へ走ったんですが、期待外れの的外れ……とまでは言いませんが、まあ微妙。反応に困る。原案未読の方はこの上映時間110分で太宰治人間失格読んでた方が絶対いいのは間違いないです。というか繋がりとかはないですけど先に『人間失格』読んでから鑑賞した方が大分楽しめると思います。

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人間失格』の原型である太宰治散文詩『HUMAN LOST』青空文庫で読むこともできるので、こちらも目を通しておくといいかもしれません。

あらすじ
昭和111年、東京。医療技術が急速に発展した無病長寿大国〈日本〉で、人間はとうとう死を克服した。人としての尊厳が失われつつある社会の中で生きる意味を見出せない葉蔵は、暴走集団のリーダー竹一と、彼に助言を与える謎の男堀木に促されるがままに富裕層の集まる”インサイド”への突貫に参加する。激しい闘争に巻き込まれる葉蔵。そこで万能医療ナノマシンが暴走して怪物化した人間”ロスト体”と遭遇した彼は、自身もヒューマン・ロストし異形となってしまう。ロスト体同士の戦闘の末、不思議な力を持つ女性柊美子の手を借り人間の姿を取り戻した葉蔵だったが、彼女から自分が「人類の希望」であると告げられ――。


「HUMAN LOST 人間失格」Official Teaser Trailer② Theme Song:m-flo「HUMAN LOST feat. J. Balvin」


「第一の手記」までは文句なしで面白かった
死を超越した時、人間は人間であると言えるのか。医療革命GRMP(グランプ)*1によって万人が不死の身体を手にした近未来で、『人間失格』をモチーフに人を人足らしめるものの何たるかを問おうとする試み、その心意気はなんとも天晴。本広克行×冲方丁という組み合わせを見ただけで否が応でも『PSYCHO‐PASS』が頭に浮かんできますが、極端に進歩した医療経済社会や、行き過ぎた技術によって異形と化す日本人といった部分は『ハーモニー』や『ベクシル』なんかも連想させます。

平均限界寿命が120歳を突破し、病気も怪我も無縁となった日本人たち。「午前四時の帰宅ラッシュ」という過労死がなくなったこの世界ならではのバグった日常、そこで突如怪物へと変貌するサラリーマン。ステルススーツを纏った謎の特殊部隊との戦闘。短い時間で作品の狂った世界観がアクションシーンを交えながら余すところなく伝わってきて、引き込まれる導入だったと思います。あとデバイスソードかっこよすぎ。MGRっぽいなと思ったら富安健一郎の名前があって納得しました。

初っ端から葉蔵がカルモチン飲んで自殺するんですけど、瞬で生き返っちゃうところまで含めて太宰もとい人間失格リスペクトで普通に笑えます。心肺停止してもコールセンターに電話一本入れるだけで、オペレーターがネットワークを通じて体内の医療用ナノマシンを操作しすぐに蘇生してくれる一連の流れは、正にこの超高度医療社会の歪が集約されています。便利な世界だ。

『第一の手記』最大の見せ場である竹一ら”イチロク”暴走集団の突貫はマジで熱い。完全にAKIRA。金田バイクの前輪をなくして代わりにジェットエンジンを搭載したあのデザイン、完全に神の発想と言う他ありません。このエッジが効いたバイクを、どうせ死なないからとヤンキーたちが無茶苦茶な運転で次々ぶっ壊していくのは痛快。

爆弾を積んだ霊柩車を護送しながら、高速道路で神奈川県警の警察犬ドローンと戦いを繰り広げる竹一たち。ここの縦横無尽に激しく動かすカメラワークが迫力満点で手に汗握りました。レインボーブリッジ目指して爆走する彼らの疾走感を十二分に感じられるアクションシーンだったと思います。

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警察犬ドローンが完全にビッグドッグで可愛かった。


キモいジャパニーズカルチャー
”昭和111年”が舞台というだけあって、SFながらも人々の生活に昭和のテイストが漂っているのがミスマッチで見てて面白かったです。これは”インサイド”と”アウトサイド”という環状線を境に富裕層と貧困層が明確に分けられていることに起因し、インサイドは近未来的な世界で描かれている一方で、アウトサイドでは生活水準が『人間失格』の執筆された昭和初期のままで時間が止まってるような対比が感じられました。

死を克服し神に近づいた人間たちに仏閣は必要とされなくなり、現代以上に神仏への信仰心が失われた日本。恐らく墓とかも必要ないんだろうと思われます。お寺が暴走族の集会場になり、霊柩車に大量の爆薬を詰め込んで釣鐘の音を合図に爆走する様はマジでクールジャパン。

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S.H.E.L.L.”*2内部では至るところで鳥居なんかも散見し、ハリウッド映画でよく見る「外国人がなんか勘違いした日本文化」を日本映画が地で行こうとするのも笑えます。

”合格者”とかいう国民の健康基準となる140歳超えの爺婆が実質的に日本を牛耳っていて、その姿は御簾や天幕で隠されているんですが、完全に帝の顔つき。医療革命後の日本では年長者であればあるほど神格化されるようで、年少者は軽んじられる空気が感じられましたが、これは少子高齢化が深刻になっている今の日本にも通ずるものがあります。

過労死の心配がなくなったことで国民は毎日19時間労働に勤しみ、大気が汚染された街中をガスマスク着けて朝四時に帰宅。健康状態を徹底的に管理され、生かさず殺さずで働かされ続ける日本国民たちは奴隷根性が染みついてしまっています。これだけ働かなければ老後に必要になる年金1億が約束されないというのだからツライ。SFの世界ながらも日本人特有の気持ち悪い空気、社会性が再現されていて、こんな未来あり得んだろと断言できないのが悲しいところ。

全国民が病苦と怪我の脅威から解放された一方で、少子高齢化長時間労働年金問題、貧困等の社会問題が浮き彫りになった『HUMAN LOST 人間失格』。まさしく現代日本の縮図ですし、ありきたりではありますがこういった側面でのメッセージは共感を呼ぶんじゃないかなと思います。まあ僕はニートなのであんまこんなこと考えないですが…トホホ


太宰詰め込みすぎ話が浅すぎ
「恥の多い生涯を送ってきました」
人間失格』同様、葉蔵のこの言葉から物語は始まり、この言葉で締めくくられるんですが、お前そんなに恥ずかしいことしてなくない?というのが率直な感想。マジでこっちの葉蔵には中身がないので「恥の多い生涯」に全く重みを感じることができません。ただ言わせたかっただけやろ。

深すぎて溺れる設定、テーマを掲げている割には登場人物たちの行動や言動が浅すぎてストーリーが薄っぺらいものになってるという感じ。

原案と同名のキャラを沢山出してニヤリとさせてはくれますが、雑に退場していく奴ばっかで記憶に中々残りません。二時間弱という短い尺の都合があるのは仕方ないですが、登場人物たちの会話が設定の説明やストーリーを進めるための事務的なものばかりで、今一つ映画に入り込むことができません。わざとなんでしょうけど、葉蔵に至ってはそもそもセリフ量が大分少ないので何考えてるのかいまいち伝わってきませんし、終盤美子が死んで彼女の理想のために~とか一人で熱くなっちゃってるの見ても完全に置いてけぼり。ポカーンとしてました。

入場者特典で聞けるボイスドラマみたいな二人の他愛ない会話みたいなものが劇中であったら、もう少し感情を乗せて映画を楽しむことができたのかなとか思ってしまいます。

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第”1”週目の入場者特典、裏面のQRコードから葉蔵と美子のボイスドラマが聞けます。2週目3週目と劇場に足を運ぶことで竹一、堀木とのドラマも解禁されるようです。浅ましい集客方法、恥を知れ、恥を。

原案意識してか、笑顔がぎこちない葉蔵、父親とのトラウマみたいなものをやたらと引っ張るんですが、これもテンポ悪くさせてんなと感じました。その一方で展開が急でついていけない場面も多かった印象。見せ場である「合格式」がどうぶち壊されるのか楽しみにしていたんですが、堀木の語りをBGMに参加者がヒューマン・ロストしてなんか知らんけどキモくてでっかい怪獣ができましたで終わってしまったのが残念です。

堀木とのラストバトルもいまいち盛り上がりにかけるし、最後瓦礫の上で雑にお互いぶっ刺して終わったのもギャグかよという感想しか湧いてきません。あの直前の美子もどきを抱いて葉蔵が落下していくシーンを入水自殺のイメージだなんだとパンフで監督と冲方丁が盛り上がっているのを見て、制作陣との温度差を感じてしまいました。健康長寿を妄信する美子に対して「信頼の天才」を持ってきたのは上手いと思いましたが。

人間失格』という太宰治のマスターピースを意識して表面的な部分に気を取りすぎた余り、ストーリーや展開がお粗末なものになってしまったのがなんとも悲しいです。

人間失格 (新潮文庫)

人間失格 (新潮文庫)

おわりに
映画としては普通につまらなかったというのが本音ですが、『人間失格』読んだ記憶のある方なら余りにもぶっ飛びすぎてて笑えるんじゃないかなと思います。「原案 : 太宰治という最初の文字を見るだけでジワジワ来るのがずるい。原案と照らし合わせながら見てみると細かい発見があってちょっと楽しめるかもしれません。

声優陣もベテランばかり揃えているだけあって演技も素晴らしいですし、m-flo×J.Balvinが主題歌を担当しているのが凄い。バルヴィンとかマジでレジェンドになりつつある世界的スターですし場違い感が半端ない。一体いくら積んだら呼べるんだ。


HUMAN LOST feat. J. Balvin / m-flo (Main Version)
こんな映画に歌を提供してくださってありがとうという感しかありませんし、ファンはこれ聴くために映画館に足を運ぶまであります。

『HUMAN LOST 人間失格』、人に勧めるかと言われるとまあ勧めないです。予告見て面白そうと思った方には尚更。あれでハードル上げすぎたせいでショック受けてるみたいなところが僕は少なからずあるので、予告で気になった方はバーを下げてから鑑賞するようにしてください。

まあとりあえず映画観る前に『人間失格』読んでおきましょう。

最後に
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

*1:遺伝子操作(Genetic manipulation)、再生医療(Regeneration)、医療用ナノマシン(Medical nano-machine)、万能特効薬(Panacea)の四つの医療革命

*2:Sound Health Everlasting Long Lifeの略。健康保障機関。